プロ野球の不人気理由とサッカーの大人気理由を考える際にJサポとして考えておかねばならないこと

プロ野球選手の愛甲さんが昨今の野球の不人気について「野球はサッカーと違って世界とのつながりがないから」だと語っている。

まさにその通りで、野球には拡がりがない。たった5球団を相手に年間で140試合を消化して、さらにそこで優勝してもクライマックスシリーズで敗退して、結局3位だったチームが日本シリーズを制したりするプロ野球。しかもプロ野球でいくら勝ってもその球団が世界に羽ばたくことがない。世界へと続く道がないのだ。

かろうじてサッカー日本代表のように位置づけられたWBC日本代表は、WBCのたった16カ国で争われる規模感や韓国と何度も対戦するようなシステムがファンをしらけさせ、興奮を奪っている。野球は世界的スポーツではなく、ファンやその他興味本位層もそれに気づいてきている。

その気づきを与えたのがサッカーだろう。男子はもとより、U世代やなでしこジャパンなどの活躍によって、世界を相手に戦う日本人、日本代表はこれまでもより広く知られ応援される対象になった。

みんな世界を相手に健闘する日本人の姿が本当に大好きなのだ。

で、こういう現状を受けてとりあえず整理しておかなければならないのは、プロ野球がもはや代表人気に勝てるわけがないということと、一方でサッカー界においても世界へとつながりをもてない、感じることができない一部のJリーグクラブがでてくるということだ。

Jリーグは開幕から十数年たって、まだまだ混戦模様が強いけども、今後はより強豪と中堅、弱小が色濃くなって行くと思われる。そうなると、一部の資金力があって知名度のあるクラブは、アジアチャンピオンズリーグやクラブW杯といった舞台で世界と戦い、より広く知られ応援される対象になっていく。もちろんテレビや新聞、雑誌といったメディアに取り上げられる回数も増える。だが、中堅以下のクラブはあくまでも国内レベルでの戦いに終始して、いわば全国的なサポートがうけられるクラブにはなり得ない。メディア露出も極小でファンの数が爆発的に増えることもない。いわゆるクラブとファンのタコ壷化である。

とこう書くと非常にネガティブな印象を与え気味だが、それは必ずしも悪い事ではない。コミュニティが小さくても動員があり、お金が回って経営が成り立ち、オラが街のクラブとして愛されていく可能性は十分ある。まあこの辺はクラブの目的がどこにあるのかによるのだが…。

最後にちゃんと言っておきたいのは、愛甲さんが「野球はサッカーと違って世界とのつながりがないから」といったところで、我々サッカーファンは「まあ野球は競技人口もカバディと同じくらいだしマイナースポーツだからなw」みたいな短絡的なことを思わないで、もう一度この言葉を落ち着いてかみしめてみる必要があるのではないか、ということだ。自分のクラブは世界につながる可能性があるだろうか、凋落の一途をたどるプロ野球と同じ道を歩みはしないだろうか、と。

南米選手権出場辞退と再検討で忘れてはいけないこと

2011年の日本代表にとって、大きなイベントはアジアカップと招待されたコパ・アメリカだとされていた。アジアカップは日本代表の劇的な試合内容と優勝という結果によって、日本中を沸かせて大成功をおさめた。アジアチャンピオンの肩書きをもって、コパ・アメリカに参加する。そんな未来を思い描いてほくそ笑んだファンも多かっただろう。

しかし、東日本大震災の影響により、コパ・アメリカの出場が危ぶまれている。震災後の3月中のJリーグ開催が延期され、その分の試合を7月などの夏場に行うように日程を組み直すということで、結果的に日本代表とJリーグの日程が重なってしまうことになる。Jリーグ開催中に日本代表選手たちがコパ・アメリカに派遣されてしまうとクラブからすれば痛手だ。鹿島や名古屋などがおいそれと首を縦に振ることはできないというのは容易に想像できる。

では、コパ・アメリカには海外組中心で臨めばいいのではないか、という意見もある。多くの海外組を抱えるようになった日本代表にとって、代表メンバーのほとんどを海外組にしてしまえばJリーグに影響はないだろうという意見だ。

だが忘れてはいけないことがある。コパ・アメリカは招待試合という位置づけであり、選手を招集する強制力がないのだ。アジアカップでさえ出し渋ったクラブもあり、香川にいたってはアジアカップで負傷までしている。強制力のないなか、欧州クラブが選手を易々と代表に貸し出してくれるだろうか。

欧州サッカーシーンはオフだから、貸してくれるだろうという見方もあるだろうが、2012年に欧州選手権が控えており、各国リーグの来期開幕は例年より早くなっているということも押さえておかねばなるまい。

カズのゴールは、しっかりと東北に届いている

日テレの実況アナウンサーは「カズはやっぱりカズでした」と言った。全くその通りだと思う。

いったいどれだけの人がこのカズのゴールに救われただろうか。東北関東大震災に始まり、福島第一原発事故、それによる水質汚染風評被害…。暗いニュースが相次ぐなか、久しぶりの、本当に久しぶりの明るいニュース、幸せな瞬間だった。

岩手のある避難所では、いつもの消灯時間は9時だが、昨日はチャリティーマッチに合わせて消灯時間を試合終了後にまで延長してみんなで観たという。小笠原満男が試合前日にマスコミに対して懇願した「被災地でもテレビを観れるように協力してほしい」という思いは、大船渡高校などで叶ったようだ。おそらく未だ電気が通らず、テレビもなく、このチャリティーマッチを観ることができない人たちも多くいただろう。だが、ほんの少しでも被災地の方々にこのチャリティーマッチが届けることができたということ、被災に対するサッカー界の素早い対応と取り組みは評価されるべきだと思う。

カズは試合後に「みんなの気持ちがひとつになったゴールだと思う。東北の皆さんに届くことを祈っています。きっと、届いたと思います」と言い、試合後のミックスゾーンでの取材では、「カズダンスをやっていいものかどうか迷った部分もあった。でも、みんなに期待されていることだと思ったのでやることにしました」と神妙な面持ちで語った。

被災地の避難所にいた13歳の少年は試合後に「カズダンスが見れてよかった。津波なんかに負けていられないし、頑張っていこうと思った」と笑顔いっぱいに語り、普段サッカーなんて観ないだろうと思われるようなおばさんも「何か元気が出た、こうやってみなさんから応援してもらえているという気持ちは十分に伝わってくる。頑張らなきゃね」と言っていた。

たとえ一瞬であっても、あのカズのゴールで幸せな気持ちになれた人や被災の苦しみを忘れることができた人がいたということが、このチャリティーマッチの最大の意味だと思う。もちろん直接的な支援は必要だ。だが、その一方でこういった心を支援するような形のものも無くてはならないと思うのだ。

カズのゴールは、しっかりと東北に届いている。

鹿島アントラーズ・小笠原満男の行動力

東北関東大震災で被災した岩手県大船渡市。大船渡市出身のサッカー選手といえば、元日本代表で鹿島アントラーズに所属する小笠原満男だろう。彼は震災後、NHKの取材に対して「何かできることはないかと考えている。できることなら今すぐにでも現地に駆けつけたい」と語った。

それからほどなくして、小笠原は自ら車を運転し、本当に現地へと駆けつけて避難所や母校を訪ねて回った。インタビューを見てどうせ口だけなんだろうと思った人たちをあざ笑うように。

避難所では、突然現れたスター選手に少年たちは歓喜し、束の間の笑顔をもたらした。そして被災者たちに「何か不足しているものはありませんか?」と声をかけ、母校では「何をしていいのかわからないけど、とりあえず母校ということでここへ来てみました。何ができるのかを見極めて自分ができることをやりたい」と述べた。愚直で、とても正直な男なんだなと思った。

小笠原は東北出身者のJリーガーを集め、できる限りの物資を届けようと動きだした。

大船渡の避難所をまわり、物資が圧倒的に足りないことを感じた小笠原は、すでに東北サッカー協会を窓口として衣類などの物資供給を開始しているという。

そして小笠原は「グラウンドもスパイクもボールもなくなり、このままではサッカーをやめてしまう子供も出ると思う。個人的にはサッカーで集めたお金をサッカーの復興に使えないかと考えている」と語った。

被災者に向けた口だけの応援エール、募金活動やチャリティーマッチ、被災者を思い浮かべてアイドルが流す涙もいいだろう。そこに心があるかないかは別として、行動しないよりは、何か行動した方がいいに決まっている。だが、小笠原満男という男がここ数日間で私たちに見せてくれた姿は、ほかのどのスポーツ選手や芸能人たちよりも意味があって意義があると思える。小笠原の行動には説得力がある。NHKの最初のインタビューで目を腫らしていたあの姿から見ていれば、小笠原の本気度は誰にでも伝わるだろう。強い思いを胸に、実際にこうした行動を起こしていける人間はそう多くない。